アイドリング!!!のスタンダード

2012年8月24日(金) 01:02 | アイドル

僕の好きな「アイドリング!!!」というテレビ番組は、アイドル番組でありながらその内容はやや特殊です。通常のアイドル番組は、企画やトークを通じてアイドルのかわいらしい一面を見せることを目的としているのですが、アイドリングは純粋かつまっすぐに「おもしろさ」を求めることを至上命題としています。
笑いを求める姿勢は時として、通常のアイドルが目指すべき「かわいさ」とはまるっきり逆のベクトルを示すことがあります。アイドルとして見ると明らかに損をしているのに、率先して笑いを取りに行くアイドリングのメンバーたち。我々アイドリングファンはそんな光景を見慣れすぎているため、それが「アイドル的には異常」であることをついつい忘れてしまいます。
特殊なアイドル番組であるアイドリングのスタンダードは、アイドルのスタンダードとどれだけ離れているのか。そして、特殊なバラエティ番組であるアイドリングのスタンダードは、本物のバラエティ番組のスタンダードと交わることができるのか、できないのか。
そんな疑問に、ひとつの答えを与えてくれる機会がありました。

恥ミントンという洗脳装置

まずはTOKYO IDOL FESTIVALの前夜祭として行われた「恥ミントン」。アイドリングの番組内の企画としてはおなじみの、ミスをすると恥ゲーム(恥ずかしい罰ゲーム)をやらなければいけないバドミントンです。前夜祭では各グループのファンが見守る中、アイドリングを含む7組のアイドルが恥ミントンに挑みました。
TIF前夜祭
CS放送4回にわたって6試合の熱戦が繰り広げられたわけですが、開始当初はドン引きだったアイドルのみなさんが、野元さんのいつも以上に振り切ったゴリラのものまねや大川さんの高すぎるテンション、アイドリングのよき理解者であるバニラビーンズのレナさんや風男塾の浦正さんと流原さんが見せる白鳥コント、そして菊地さんのもはや罵声としかいえないガヤに触れたことで変なスイッチが入ったのか、汚れ仕事とは最も無縁のイメージだったAeLL.のリーダー西さんが自ら率先して青汁の粉を食べてみたり、全試合が終わったあとにYGAの正統派アイドル林さんが泥棒ひげヅラで「今日は何も残せなかった」とおかしな方向で悔やんでみたり、青汁も泥棒ひげも白鳥もやらずにきれいな体のまま終わったTHE ポッシボーの後藤さんが「白鳥をやりたかった」と、アイドルとして明らかに間違ったことを口走ってみたりと、みんな何か悪い宗教に洗脳されてしまったかのようでした。恥ミントンが始まる前は「恥ゲームをやらされたら損」と思っていたはずなのに、試合を経るごとに「恥ゲームをやらなければ損」という、180度ひっくり返った異常な思考に脳を支配されてしまったアイドルたち。これはまさに、催眠商法にだまされて高額の羽毛布団を買わされたおばあさんと同じではありませんか。安い卵や洗剤を買いたかっただけなのに、密室から出たときには布団やら空気清浄機やらわけのわからないものを持たされていたわけです。
白鳥
純粋なアイドルたちをだましたのは、アイドリングとしては間違いなく正常な、しかしアイドルとしては間違いなく異常な立ち振る舞いを演じたアイドリングメンバー4人と、それに乗っかった一部の特殊なアイドルたちの行動です。恥ゲームをただやり切るだけでは飽き足らず、常に貪欲に笑いを追いかける求道者たちの叫びが無垢な女の子にとって強烈なイニシエーションとなり、あれだけ恥ゲームを嫌がっていたアイドルたちが次々とオルグされてしまったわけです。

ただひとり、SUPER☆GiRLSの勝田さんを除いては……。

アイドルであり続けるための孤独な戦い
勝田梨乃
「ああいう罰ゲームをして、ご両親は何ともおっしゃらないんですか?」

皆がアイドリングが作り出す魔力に飲まれ、「恥」=「おいしい」という芸人的思考回路がアイドルたちの脳を蝕みつつある中、正統派アイドルとしての矜持を貫き続けた勝田さんの魂の叫び。
この疑問、確かにアイドリングのファンとしても興味があります。大切な娘がテレビの前で恥ずかしいことをやらされて、親御さんはどう思っているのか! でもそんなこと当事者であるメンバーが聞けるわけないし、恥ずかしいことを強いている立場のMC升野さんが聞けることでもない。まして部外者が聞けるはずもない。同業者だから許される質問です。そして、この場に勝田さんがいなければ永久に放たれることがなかったかもしれない質問です。そのインパクトに比べれば、青汁の粉の処理で収録を10分遅らせたとか、股間に白鳥をつけて踊る恥ゲームを拒んでパートナーの宮崎さんに押しつけたとか、そんなのは取るに足らないことです。
そしてファンは思い出すわけです。「泣けるアイドリング」で語られた野元さんとお母さんの素敵な関係を。アイドリングメンバーの親御さんはみんなアイドリングを心から応援していることを、ファンも知っています。
勝田さんの問いに間髪入れず「故郷でちゃんと見てくれてるから!」と答えた菊地さんは、奇しくも勝田さんと同じ北海道出身。菊地さんのお母さんも、アイドリングでがんばる菊地さんを遠いところから応援しています。そう、アイドリングは家族ぐるみで変なスイッチが常時オンになっているのです。「こんなことしたらお母さんに怒られる」とつぶやく勝田さんの想像の外側にある、存在してはいけない世界がまさに目の前で繰り広げられている。「アイドルが恥ずかしいことをしているのに、お母さんは悲しむどころかむしろ拍手している」という世界の存在を認めることは自我の崩壊への第一歩。それを必死に拒み続ける勝田さんの孤独な戦いを、どうして応援せずにいられるというのか!
スパガ
「恥ゲームをやらなければ損」という呪いの思考に支配された場では、通常の世界においては正義の側に依って立つ勝田さんは異端者と見なされます。異端者に辛辣な言葉を浴びせ続ける菊地さんと、異端者には徹底した無慈悲と不寛容で臨むバカリズム升野さんと森本アナ。まさに怪しい新興宗教におけるオルグの風景そのものです。やがて味方の宮崎さんまでもが呪いの餌食になり、たったひとりになっても、勝田さんは自らの正義を信じ、「アイドリングのスタンダード」という悪魔と戦い抜きました。立派でした。輝いていました。
勝田さんが流した流さなくてもいい涙は、アイドル業界におけるアイドリングの相対的な立ち位置がいかにメインストリームから外れているかを示してくれました。アイドリングの世界にどっぷり浸かっていると、アイドリングが強力な洗脳装置であることに気づかなくなってしまいますが、真っ当なアイドルたちが真っ当ではない思想に染まっていく生々しい過程が、その事実にあらためて気づかせてくれました。TIF前夜祭は我々アイドリングファンにとって、実に示唆に富んだ回でした。

アイドリング!!!のスタンダードが芸人の心を動かす

そしておとといのロンドンハーツです。「元アイドリング!!!」という肩書きとともに登場した21歳のグラビアアイドル谷澤恵里香さんが、ドッキリとは知らずにロンブー淳さんにやらされた「エア重量挙げ50回」という無茶振りを、ロンブーや有吉さんの期待を上回るクオリティでやり抜き、他のグラビアアイドルを押しのけて「未来の熊田・磯山オーディション」のグランプリに輝きました。
谷澤恵里香
谷澤さんは何も特別なことをしていません。あれこそ芸能生活の最初の5年間をアイドリングで過ごし、今も体内にアイドリングの濃ゆい血が流れている谷澤さんのスタンダードです。無茶振りをチャンスと解釈し、間違いを恐れずにとにかく全力でやり切る。その姿はアイドリングのファンならみんな知っています。
アイドリング時代にはときどき「そんなの外では通用しねーぞ」と升野さんに突っ込まれていました。確かにどう考えても外仕事で通用しないような寒いこともいろいろやらかしましたが、うまくはまればアイドリング外でも大きな破壊力を生むことを証明してくれました。
ロンハーでは「芸能界を辞めようと考えていた」みたいなことも言っていましたが、谷澤さんはもともと精神力がそんなに強くなくて、悩んで迷走する姿もときおり見せていました。それでも今まで6年近くやり切ってきたことに対してようやくひとつの結果が出たことを、谷澤さんの姿をテレビでずっと見てきた僕は心からうれしく思います。
そして、おおげさに言うなら、これはアイドリングのスタンダードが人気番組のMCの心を動かした、記念すべき瞬間でもあるわけです。アイドリングのおもしろさは閉じられた世界でしか成立しないものではなく、世界に開かれた共通言語なのです。これまでアイドリングを応援してきた僕まで誇らしい気分になりました。
だからといって現メンバーの卒業後の未来は明るいぞなんて楽観的なことはとても言えませんが、谷澤さんが菊地さんとは異なるアプローチで新しい道を切り開いたことは、後に続くメンバーにとって大きな力になるはずです。

TIF前夜祭とロンハーを通じて、あらためてアイドリングの異常さとおもしろさを知りました。みんなのことをもっと応援したくなりました。

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