格差問題の中枢は、所得ではなく時間だと考える

2007年3月 5日(月) 01:19 | 日記

きのうの日記の続きです。
格差社会を語るうえで避けて通れないのが、労働者の雇用についての話です。
所得の低さは格差を形成する直接的な要素であるだけでなく、「低賃金・長時間労働」の環境に置くことで、労働者に余計なことを考えなくさせる効果もあります。労働争議や、政治的な運動を起こす暇すらないというわけです。
大企業にはほぼ例外なく労働組合という組織があります。それがうまく機能しているかどうかは別として、曲がりなりにも「経営者に対する圧力団体」としての一定の地位は保障されています。
しかし、中小企業となれば話は別です。

僕が昔働いていた会社は、名古屋の本社の社員が100人以上で、大阪や福岡などに支社がありました。大企業と呼んでもいい規模です。
しかし、組合はありませんでした。
きのうも書いたように、労働環境は最悪でした。正直言って、別の会社で時給850円くらいでアルバイトした方がよっぽどお金になりました。
こんな環境だと、「組合を作ろう」なんて気すら起こらないんですよね。そもそも、嫌になったらさっさと辞めるし、ある日突然会社に来なくなる人も普通にいましたので。それを異常と思わない会社でした。
でも僕は、搾取されっぱなしなのは嫌だからと、組合を作るためにいろいろと法律を調べたりしました。僕の行動に対して、後輩は応援してくれたけど、管理職ではない直属の先輩には全く理解を得られませんでした。
会社の現状を、労働基準監督庁にひとりで訴えに行ったこともありました。しかし、時は不況のまっただ中。「リストラで仕事を失う人が後を絶たず、毎日その対応に終われている。まだ仕事があるだけいい」と言われて門前払い。「経営者が労働者を人間として扱わない」という点では、過剰なリストラも不当な労働条件も同じだと思うのですが。
すべてに失望して、仕事に対するモチベーションも完全に失ってしまったので、労働組合を立ち上げることなく、間もなく会社を辞めました。風呂敷を広げるだけ広げて逃げてしまったことを、後輩に対して申し訳なく思っています。先輩やら上司やらに対しては何も思うところはないですが、中間管理職の人々もかなり搾取されていたわけで、同情する点もないわけではありません。

でも実は、僕がいた会社のような労働環境は、決して珍しくないわけで。おそらく大企業のエリートには僕らの気持ちは分からないだろうし、一流といわれている大学に入った人の多くは、そんな世界とは無縁でいられるのでしょうけど。
そりゃ政治のことなんて誰も考えなくなりますよ。
もし今、日本にヒトラーみたいな人間が出てきたら、そうした労働者の心のすき間に食いついてきますよ。

そうか。分かったぞ。
もし格差が拡大して、所得の低い層が増えると、ますます資本家だけが太り、底辺はさらに拡大する。
この構図において割を食うのは所得の低い人たちだけではなく、「そこそこ収入はあるけど、長時間労働は嫌だし、少なくとも今のままでのんびり暮らしたい」という、中の上くらいの層なんですね。
つまりは、宮台さんのような研究者の地位であったり、講演会に出席していた学生が近い将来就く職業によって得られるはずの地位であったり。そこの土台がおびやかされるのはたまったもんじゃないと。

これだけでは分かりにくいので、もう少し言うと。
仕事柄、日経新聞を読んでいます。日経って、基本的に記事の視点が資本家や経営者寄りなんですよね。政治的には右でも左でもないのですが、経済に関しては明らかに資本家寄り。別にそれが悪いとは思わないけれど、サラリーマンとしては賛同しかねる社説も多く、もう少し気を使って書いてくれよと思います。
経済はグローバル化しています。現在、日本を含め世界はおおむね好景気です。なぜか。中国やインドに代表される新興工業国が、成長途上にあるからです。
これらの国では、工業製品などを先進国より安く作ることができます。トヨタ自動車などのグローバル企業は、こうした国々に生産拠点を移すことで、低コストで製品を生産します。そうすることで業績を上げているわけです。このモデルは、世界のどこかに安価な労働力が存在する限り成立するわけですから、今後も半永久的に続きます。
だから、日本は内需がたいして拡大しないのに、景気回復だと言われているわけです。
とはいえ、企業が儲かったからといって、それがすぐに労働者の賃金に反映されるわけではありません。まずは設備投資、次に株式の配当。それがひと回りして、ようやく賃金に回るわけです。
2006年には個人消費が回復すると多くのエコノミストが言っていましたが、現実はそうなりませんでした。いまだに個人消費は冷え込んだままです。

僕は今の状況を、格差が解消するまでの一時的な過渡期だと思っています。バブル崩壊で体力を失った企業は、どんな手段であれ業績を回復することが至上命題で、そうしないと労働者に賃金が行き渡らないので、個人消費も回復しない。このあたりは、日経新聞の論調と同じです。
ただ、企業業績が良くなった後は、放っておくと企業がお金を全部せしめてしまうので、政策によって無理にでも一般市民にお金を回すようにする必要が出てくると思います。それがちょうど今の段階だと思うのですが、政府が打ち出したのはホワイトカラー・エグゼンプション。よりによって、全く逆の発想です。
さすがに日経新聞も、今回の政府の対応は性急過ぎたと断じています。
別にホワイトカラー・エグゼンプションの内容そのものは、その対象が高所得者に限るのであれば僕らには関係のない話なのですが、どちらにしてもヨーロッパ的な労働観とは正反対の考え方であることは間違いありません。
本来求められるべきなのは、「今以上に働いて、より多くの賃金を稼ぐ」ことではなく、「今と同じ賃金でもいいから、残業をなくして、労働時間を短くする」ことです。
格差が問題なのは所得の差ではなく、自由時間があまりにも少なすぎることなんですよね。宮台さんが「精神的な安全を獲得していない」という原因としても挙げています。

日経新聞では、労働条件の改善を個人消費の拡大という側面でしか論じていない印象です。「消費のためには末端にまで金を行き渡らせる必要がある」というだけ。でも、以前僕が求めたのは、必ずしもお金だけではなかったわけで。
お金がなくても、時間があればどうにかなります。次の職業について真剣に考えることもできるし、お金がなくても楽しいことを見つけられます。
お金も時間もある「勝ち組」はごくわずかです。大半はお金はそこそこあるけれど時間がない、あるいはどちらも不足している人です。そうした人がさらに増えて、世の中に対するあきらめや失望が蔓延すれば、世の中を変えようという機運はさらに弱くなる。それどころか、かつての日本のような全体主義的な動きが起きてもおかしくない。いや、それは考えすぎでしょうか。
とにかく、「勝ち組」の一段下にいる、そうした状況が見える人たちにとっては、こりゃなんとかしなきゃまずいと。菅さんの周囲にいる学生さんも、そうした考え方を共有しているのではないかと思っています。

とにかく、まずは労働者に「時間」を与える政策を打ち出してほしい。時間があれば、いろんなことが解決する糸口になると思う。
菅さんは、今度の選挙の柱に格差問題を挙げようとしていますが、その中身については「労働時間」を重視してもらいたいですね。非正規雇用や最低賃金の問題について具体的な方策を話していましたし、それも大切なことには間違いないのですが、もうひとつ「労働時間の強制的な削減」にまで踏み込んでもらいたいと個人的に考えています。

僕が2004年春まで勤めていた会社は、山口組の有力なフロント企業のひとつとして、今も変わらず活動を続けています。別に売り上げの一部が司さんや高山さんのところへ行くのはどうでもいいんですけど、最低限日本の法律くらいは守れと。こうした企業をなくすために、法律をさらに強化して、運用を徹底するよう求めたいです。
そのあたりの制度が整ったうえで、それでも非正規雇用をあえて選ぶ人がいるのであれば、格差なんて問題と呼ぶに値しないものになるでしょう。

何が言いたいのかよく分からない文章を長々と書いてしまいました。実際の僕も「話にオチをつける」「言いたいことを明確にする」ということが苦手だったりします。人に何かを伝えることより、話すことそのものを目的とすることが多く、よくそのことを突っ込まれていました。けっこう女性的な性格なんです、というと女性の方に怒られてしまいそうですが。

最後に。最大の問題は、宮台さんや菅さんが考えていることを、どうやっていろんな人に伝えるか。これに尽きるんでしょうね。素晴らしい政策やマニフェストを作るより、そっちの方がずっと難しい。どうやったら関心を持ってもらえるのか。やはり「格差社会」だけでは弱いので、もっと身に詰まるようなネタをひとつ用意すべきでしょう。ひとつの方法論として、僕が先に書いた「労働時間の強制的な短縮」なんて、いいと思うんだけどなぁ。世の中には経営者より労働者の方が多いわけで、票を集めるためには労働者にとって利益の大きい政策を掲げる必要があると思うのですが。
でも、子育てやローンに追われる世帯は、どれだけ自由時間がなくなってもいいから、お金を稼ぐことが至上命題だったりするわけで。だとすると、こんな政策はむしろ邪魔になってしまう。
やっぱり難しいなぁ。素人が簡単に考えられることではありません。
菅さん、がんばってください。

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