一気通貫という麻雀用語が新聞の1面に使われたことへのすっげー違和感と、一気通貫に関するちょっとした考察

2012年1月17日(火) 23:59 | 日記

麻雀の役が、突然「普通名詞」として現れた

「一気通貫」は、麻雀をやってる人であればおなじみの言葉です。同じ色で「123」「456」「789」の3つのシュンツを作る役のことで、メンゼンなら2翻、鳴いたら1翻。リーチをかけてピンフがつけば7700点、メンゼンでホンイツを絡めればハネ満が期待できるという、あがるととても気持ちいい役です。
ただ、実際に麻雀を打つときに、一気通貫のことを律儀に「いっきつうかん」と呼ぶ人はほとんどいません。ましてや中国語読みで「イーチートンカン」なんて言う人は一度も見たことがありません。おそらく10人いたら9人、いや100人中95人以上が「一通」(いっつう)と略して呼ぶはずです。

そんな一介の麻雀用語にすぎないはずの「一気通貫」という言葉が、今日の日本経済新聞の1面の特集記事で「普通名詞として」使われているのを見て、ものすごい違和感を覚えました。
以下、記事の該当部分を引用します。

アップルは製品にこだわるだけではない。商品力を武器に、通信会社などと販売代金を前金で受け取る契約を結ぶ。製造は台湾企業などに委託し、流通段階ではケーブル1本まで、販売情報を常時集めている。開発、製造、調達、流通。さらにはネット上での消費動向を一気通貫で把握し、資金回収を最大化する。

ね、気持ち悪いでしょ?
麻雀を知ってる人にとっては「なぜそこで唐突に麻雀の役?」と思うでしょうし、知らない人にとっては「なにその気持ち悪い専門用語っぽい言葉? 新しいコンサル用語?」と引っかかりを覚えるはず。
字面を見れば、まあ言いたいことはなんとなく分かるんですけど、「すべて一貫して」のような平易な言葉を使えばすむところを、麻雀を知らない人にとってはなじみがないであろう「一気通貫」という言葉をわざわざ選んだ意図はどこにあるのでしょうか。

あえて「専門用語」を使うメリット

「一気通貫」という言葉が、これと同様の文脈で使われる場面に遭遇したことが、実は過去にもありました。
2年くらい前に、仕事でIT関連の会社を取材したときです。その会社が開発しているシステムについて、担当の方が「会計業務から在庫管理まで一気通貫で」というような言い方をしていました。
そのときは「この人麻雀が好きだから、サービスの特徴をあえて麻雀でたとえてみせたんだろうな」という認識でした。両面テープのことを「リャンメン」、正面や向かい側のことを「トイメン」と言う人がたまにいますが、それと同じ感覚だと思っていました。
分かる人にだけ分かる俗語を使ってニヤニヤする感覚。「麻雀を知っているという共通項をあぶり出すキーワード」を会話の中に潜り込ませて、「同好の士」としての連帯感を強める狙い。その言葉が持つ「特殊性」が強いほど、当たれば効果がありますが、外れれば場がしらけてしまうというリスクがあります。その点、「一気通貫」という言葉の響きは、麻雀用語の中ではそこまで強い特殊性を帯びていないので、麻雀を知らない人が相手でもぎりぎりセーフかもしれません。
とはいえ、「麻雀という、ルールを知らない人の方が多いゲームでのみ使われる特殊な用語」であることには変わりありません。会話の中であればまだスルーできるのですが、これが活字になると、どうしても気持ち悪さがぬぐいきれません。ましてや、あろうことか日経の1面にこういう「俗語」の類が堂々と掲載されたことに、日記のタイトルに書いたとおり「すっげー違和感」を覚えたわけです。

実はすでにたくさんの用例があった

いや、もしかしたらそう思っているのは自分だけかもしれない。
僕が知らないだけで、実は「一気通貫」という言葉は麻雀用語という垣根を越えて、少なくとも一部の業界においては一般名詞化しているのかもしれない。
そんな疑問がわき上がってきたので、ちょっとネットで調べてみました。

まずはアマゾンで検索しました。すごいんですねアマゾンの検索機能って。書名や著者名だけでなく、本の中に書かれているキーワードまでヒットするなんて。
「一気通貫」で検索したところ、いちばん上に出てきたのが、2006年4月に発行された『一気通貫生産方式―脱カンバンの生産革新』なる本でした。出版元は日刊工業新聞社。へー、こんな本がちゃんとした出版社から出てたんだ。サンマーク出版とかそういうとこじゃなく。
もしかしたらこの本の存在が、「一気通貫」という専門用語が雀卓から野に放たれるひとつのきっかけになったのかもしれませんね。

本の中身まで含めると、2008年以降に出版された書籍で、麻雀関連の書籍を除いても50件以上が検索でヒットしました。タイトルを見て思ったのは、プレゼンテーションとかマーケティングとか流通とか、いわゆるコンサルタントと呼ばれる業種の人が活躍しそうな分野に集中しているということ。コンサル界隈で、2008年頃を境に「一気通貫」の語が広く使われるようになった、ということでしょうかね。
検索結果の中で最も古いのは、麻雀関連の書籍を除くと、2005年3月に出版されたビジネス書でした。やはり冒頭の日経の記事と似たような意味で「一気通貫」という言葉が使われていました。

ここからは僕の想像です。前述の書籍もそうですが、ことの始まりは「麻雀が好きな人が、経営コンサルの提案なり生産体制なりのひとつのスキームを端的に表す言葉として、それっぽい麻雀用語をあてはめてみた」という軽いノリで、先に書いたとおり、麻雀を知らない人にはなじみのない言葉なので、当初はなかなか広まらなかった。一方で、「コンサルの現場で麻雀用語を使うなんてナウいじゃん」と共感した一部の人たちが、現場で率先して「一気通貫」という言葉を使うようになった。それがおそらく2006年から07年のこと。そうこうしているうちに、麻雀を知らないコンサルにまで「一気通貫」という言葉が広まり、ついに2008年にブレイク。現状ではコンサルタントおよびその周縁という業界に限られるものの、「一気通貫」という言葉は、麻雀用語から普通名詞へとランクアップした……。

過去の日経の記事も少し調べてみました。
会社のアカウントで日経電子版にログインして、過去5年分の記事を「一気通貫」で検索したところ、26件の記事がヒットしました。
その内訳は、2012年が1件(今日の記事)、11年が11件、10年が9件、09年が3件、08年と07年が1件ずつでした。全体の半分くらいが製造業に関する記事で、そのほか流通業、広告、IT業界の話題がちらほらといった具合です(記事の本文を見ると料金が発生するので、見出ししか確認していません。本当は「日経テレコン」で他紙の状況も調べたいところですが、こちらは見出しを検索するだけで料金が発生するので、さすがに自重しました)。

書籍において「一気通貫」がブレイクした時期から1年以上遅れて、日経の紙面でもそれなりの頻度で登場するようになりました。
ただ、昨年1年間でも出現頻度は月に1回というペースであり、個人的には「まだ普通名詞化したとは言えないし、一般の読者に向けた記事にこの語が使われたら違和感を覚えるのは当然」だと思います。そもそも、うちの最新のATOKでも一発で変換できないレベルの言葉ですから。
でもあと何年かすると、「リーチ」「チョンボ」に続く、麻雀を由来とする3つめの一般名詞となるんでしょうかね。テレビで政治家とかが言い始めたりしたら一気に広まりそう。「一気通貫の税制改革」とかそういうの。あー誰か本当に言い出しそう。きんもー。

違和感の正体は「既存の言葉に、勝手に意味が付け加えられること」

「すっげー違和感」の正体は、前半に書いた「日経というステータスのある経済紙に『一気通貫』という俗語の類が堂々と掲載されたことの気持ち悪さ」だけでは足りなくて、もっと別の感情も入り交じっているのではないか、と思っています。

ビジネスの世界では、なじみのない人が見ると気持ち悪くなるような符丁というか、専門用語がたびたび登場します。「コンプライアンス」とか「サステナビリティ」とか「PDCAサイクル」とか、日常会話ではまず出てこないような言葉。でも個人的には、こういう専門用語は、使われる場所さえわきまえられていれば、別になんとも思いません。
法曹界や医学界の言葉も難解ですが、難解であればあるほど言葉と概念の結びつきが強くなり、相手に誤解を与える可能性が小さくなるから、おたがいの共通言語としてそういう専門用語が存在している限りは、専門用語はコミュニケーションを円滑にする道具として有効に働きます。こういう場合は、むしろ平易な言葉に置き換えることの方が避けられるべきだったりします。
一方の「一気通貫」はどうかというと、もとから言葉と概念がきれいに1対1で対応している言葉なわけです。役の名前だから当たり前なのですが、きちんと意味が定義され、ほかの意味が入り込むすきがない言葉なのです。ところが、その「すきがない専門用語」に、いつの間にか別の意味が加えられてしまった。
おそらく、最初に麻雀とは別の意味で「一気通貫」という言葉を使った人は、「別の意味を加える」という意図はなかったと思います。単に掛詞(かけことば)として、洒落として麻雀の用語を拝借しただけのことです。しかし、その用法が思いのほか広まってしまい、いつしか市民権を得て、ついには日経で普通に使われるようになってしまった。日経にこの言葉が登場する前の2007年から08年頃には、現場でこの言葉を使う人が少しずつ増えたことと並行して、「業界誌やビジネス誌で『一気通貫』という言葉が徐々に浸透する」という段階があったと推測されます。

それで何が違和感かというと、「すでに意味が確定している言葉に勝手に意味を与え、それをあたかも『一般常識』のように押しつけられている感覚」が気持ち悪いんだろうな、と思います。
「一気通貫」という既存の言葉ではなく、別の新しい造語であれば何の問題もなかったわけです。「断捨離」的な何か。あるいは難しそうな外来語であってもよかった。ああいう概念ってなんとなく英単語1語で表せそうな気がしなくもないですし、なければアメリカ人お得意のアクロニム(複数の単語の頭文字を取ってつなげた造語。「ASAP」みたいなやつ)で作っちゃえばよさそうなもんですが、そういう言葉ってないんですかね。

ここまでぐだぐだと長い文章を書いてきましたが、つまり僕が言いたいのは、もうずいぶん長いこと雀荘に行ってないので、ひさしぶりに本気の麻雀を打ちたいということです。

トラックバック

トラックバックURL: http://folky.saloon.jp/mt/mt-tbc.cgi/2565

コメント

はじめまして。
今年の4月から北海道の土建業界(発注者側)から東北に出向している者です。
東北では発注者側・受注者側共に一気通貫という用語を多用しており、しばらく意味がわかりませんでした。
確かめたわけではありませんが、その浸透の程度からおそらく2008年以前から使われているものと推測されます。
ちょっと気になったので書き込ませていただきました。

はじめまして。コメントありがとうございます。
建設業界でも早くから使われていたんですねこの言葉。確かに「一気通貫」って、穴を掘ったり鉄骨を組んだりするのに似合う言葉のような気がしました。実際には、僕が日記で書いたような文脈で使われていると思われますが。

この言葉をあたかも新しい専門用語のように使う人が、「プレゼンでよくわからないカタカナ語を駆使して自分を賢く見せようとするコンサルタント」と同じ匂いを感じて気持ち悪かったので、このような日記を書かせていただきました。

はじめまして。

先ほど別のサイトのネット記事でも一気通貫を使っているものがあって、強い違和感を感じ、私と同じようにこれに違和感を感じている人はいないのかと検索してここにたどり着きました。
6年も前の記事にコメントしてしまってすみません。

ただはじめは私もなぜ一気通貫などという言葉を敢えて使うのか疑問だったのですが、お書きになった記事を読むにつれ、またコメントも拝見したうえで、逆にそこまでおかしいことでもないのかもしれないと思うようになりました。
例えば「王手をかける」なんかは将棋用語として有名ですがいつから使用されていたのか分からないくらいには日本語において新聞などでも頻繁に見かける慣用句です。類語に「リーチをかける」だなんてまさに麻雀用語もありますが、それすら今や違和感なく受け入れられている社会。まして「プレゼンで多用されるよく分からないカタカナ用語」たちも昨今では市民権を得ています。
誤用でも専門用語でも外来語でも社会で多用されるようになればそれを取り込んで社会全体が常用を始める。私たちはそんな時代の変化を違和感という形で感じ取り、そして慣れて行ってしまうのでしょうね。

コメントを投稿

※サーバーの状況によって、投稿完了まで時間がかかることがあります。
※投稿内容がすぐに反映されないことがありますが、ページを再読み込みするとコメントが表示されます。
※入力したURLは公開されますが、メールアドレスは公開されません(管理者に対してのみ通知されます)。